個人情報保護委員会と政治団体オープンサイエンスの第一審の判決文を読んでいて、興味深いことがあったので少し触れたいと思う。
1つ目は「官報も破産者の権利利益を侵害している」と裁判所が判断したことだ。破産者の氏名や住所、破産した事実は、破産法の定めにより官報に公告され、広く国民に知らされるが、破産者の官報公告が破産者の権利利益を侵害しているとの裁判所の判断は、事前の予想を超えていた。破産者の官報公告が、破産者の権利利益を侵害しているのであれば、破産法の見直しも含めた議論も視野にはいってくる。破産した人が、官報公告により破産した事実と共に氏名や住所が公告され、自らの権利利益が侵害されたとして、内閣府や国立印刷局を相手とする訴訟を提起することを、私は期待をしている。そのとき裁判所はどのように判決するのだろうか。
2つ目は「破産者情報通知サービスは、個々の検索又は登録により破産者情報を提供するというものであるから、個別の情報伝達の機能に特化したものであり、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせるものには該当するとはいえない。従って個人情報保護法第76条2項の報道には該当するとはいえない」との判決文である。破産者情報通知サービスは、個々の検索又はメール通知により破産者情報を提供していただけでなく、文字テキストで不特定かつ多数の者に対し、サイト上で破産者情報を提供していた。従って、破産者情報通知サービスに対する裁判所の事実認定は誤っている。そうなると、破産者情報通知サービスは、旧個人情報保護法第76条2項の「報道」に該当することになる。「報道」であれば、政治団体オープンサイエンスに対する個人情報保護委員会の「命令」はできない。実は、この判決文の数ページ後で、破産者情報通知サービスは「不特定多数の者が容易に破産者情報に到達することができる」「破産者情報を容易かつ簡便な検索で不特定多数の者に提供している」との記載があり、不特定かつ多数の者に対して事実を知らせていなかったから「報道ではない」とした判決文と矛盾が生じている。この点は高裁で追求していきたいと思う。
ちなみに、個人情報保護委員会は「破産者情報通知サービス」が報道にあたらない理由として、いつもコピペし、貼り付けてくる文章がある。平成15年4月24日に開かれた第156回国会(衆議院)個人情報の保護に関する特別委員会における細田博之国務大臣による答弁だ。「名簿、住宅地図等の出版は、いわゆる社会の出来事としての客観的事実を記述し伝達するものではないということですから、報道にも該当しないと考えております」。この大臣答弁をどのように読めば、破産者情報通知サービスは「報道」に当たらないと解釈できるのかわからないのだが、個人情報保護委員会は、何度尋ねてもその疑問に真っ正面から答えることなく、いつもこの大臣答弁を引用し、破産者情報通知サービスが報道には当たらないと強弁する。
これに対し、政治団体オープンサイエンスは、次のように主張した。個人や法人の「破産」は社会の出来事であり、官報に公告された客観的事実である。破産者情報通知サービスは、「破産」した事実を、サイトやメール、検索サービスを通じ、社会に広く伝達している。従って、破産者情報通知サービスは「報道」に該当する。
ところで、執筆時点において、運用公開されている「新」破産者マップは、2022年11月、個人情報保護委員会より「サイト停止命令」を受け、その後「告発」をされている。個人情報保護委員会が「命令」を行った背景に「新破産者マップは報道に該当しない」との前提がある。新破産者マップが「報道」に該当すれば個人情報保護法の除外規定の対象になり「サイト停止命令」ができないからだ。新破産者マップが報道に該当しないと、個人情報保護委員会が考えているのは、この大臣答弁が根拠となっている。判決文では、大臣答弁を根拠とした個人情報保護委員会の主張を認めていない。新破産者マップは、破産という社会の出来事としての客観的事実を記述し不特定多数に伝達しているので「報道」に該当する可能性がある。
3つ目は、国立印刷局の官報情報検索サービスと、破産者情報通知サービスとの比較だ。破産者情報通知サービスについて、個人情報保護委員会は「インターネットという情報伝達媒体を用いて電子データという瞬時かつ広範囲に流通しやすい方法で不特定かつ多数の者に対する破産者情報の提供」が、破産者の権利利益を侵害していると、第一審における答弁書で主張した。これに対し、政治団体オープンサイエンスは「独立行政法人国立印刷局は、官報情報検索サービスとの名称で、インターネットという情報伝達媒体を用いて電子データという瞬時かつ広範囲に流通しやすい方法で不特定かつ多数の者に対する過去70年以上に及ぶ破産者情報の提供を長年にわたり行っている」と指摘した。すると、個人情報保護委員会は、政治団体オープンサイエンスの主張を認め、次のような主張に変更した。破産者情報は結果的に出てくるが、国立印刷局のサービスは、フリーテキストで検索するから、破産者の権利利益を侵害しておらず、それに対し、破産者情報通知サービスは、破産者の氏名や住所で検索する形に特化しているから、破産者の権利利益を侵害している。検索結果に破産者情報が含まれていたかではなく、検索結果が表示される前の検索機能に注目し、フリーテキストで検索する機能であれば、破産者の権利利益を侵害せず、破産者の氏名や住所で検索できる形になっていれば、破産者の権利利益を侵害する。私には奇妙な主張にように思えるが、裁判所はこの奇妙な主張を認めた。
この判決に基づけば、これまでと同じような形で破産者情報を検索者に提供していても、破産者の氏名や住所で検索できる機能をやめ、フリーテキストでデータベースを検索できるようにすれば、破産者情報通知サービスは、破産者の権利利益を侵害していないことになる。
今日はここまで
判決文全文を公開されては、どうでしょうか。個人情報保護委員会の独善には、被害を受けている国民も多数いる訳ですから、是非公開して頂ければと思います。
あと、「報道」には個人情報保護法第57条2項に「前項第一号に規定する「報道」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。)をいう。」という「定義規定」があるのですから、裁判所が勝手に法律と違う意味で「報道」を定義することは許されないと思います。(立法権の侵害、憲法76条3項(憲法と法律に従って裁判を行うこと)違反)
破産の官報公告において、官報は単なるメディアであって、公告を行っているのは「裁判所」。つまり裁判所が判決で、裁判所自身が破産者の人権を侵害していると認めたという話になる。とは言え、昔は破産宣告と言いましたが、破産手続き開始決定は、裁判所の行為ですから、公開すべきことであり、その根本には、日本国憲法82条「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」が有る訳です。裁判所の行為は公開して、国民の批判に晒されなければならない。当然、裁判所自身はこれを隠すことはできないはずです。裁判所が行った破産手続き開始決定を、裁判所自身が隠すというこは、民主国家である以上、許されないと思います。