「個人情報保護委員会VS政治団体オープンサイエンス」その3 命令に対する見解

投稿者: | 2022年3月27日

2022年3月23日に個人情報保護委員会が、破産者情報通知サービスを運営している「政治団体オープンサイエンス」に対し命令を行いました。現在、東京地方裁判所に命令の効力を停止するべく仮処分を申立てていますが、命令の「法的な問題点」について触れたいと思います。

(1)政治団体は、委員会が主張する「個人情報保護法第23条」が適用されない

個人情報保護委員会は、破産者情報通知サービスが、個人情報保護法第23条第1項に違反していると主張しています。しかし、政治団体オープンサイエンスは、個人情報保護法第76条第1項第5号における政治団体であり、政治活動の用に供する目的で運用しているため、個人情報保護法第76条第1項の規定により、個人情報保護法第23条第1項は適用されません。

(2)政治団体は、命令の対象とならない

個人情報保護委員会は、政治団体オープンサイエンスが、個人情報保護法第23条第1項に違反しているとし、政治団体オープンサイエンスに対し、個人情報保護法第42条第2項に基づく命令を行いました。しかしながら、政治団体オープンサイエンスは、個人情報保護法第76条第1項第5号における政治団体であり、個人情報保護法第76条第1項の規定により、個人情報保護法第42条第2項の適用を受けません。個人情報保護委員会は、政治団体オープンサイエンスに対し、命令を行うことはできません。

(3)破産者情報通知サービスは、個人情報保護法第23条第1項の対象ではない

個人情報保護委員会は、破産者情報通知サービスが、個人情報保護法第23条第1項に違反していると主張しています。破産者情報通知サービスは、官報に公告された破産および再生の事実を不特定かつ多数の国民に対し、客観的事実を事実として知らせています。他方、個人情報保護法第76条第2項では「「報道」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること」を、「報道」の定義しています。破産者情報通知サービスは、個人情報保護法第76条第2項の報道に該当し、個人情報保護法第76条第1項の規定により、個人情報保護法第23条第1項が適用されません。

(4)破産者情報通知サービスは個人情報保護法第42条第2項の対象ではない

個人情報保護委員会は、政治団体オープンサイエンスが、個人情報保護法第23条第1項に違反しているとし、政治団体オープンサイエンスに対し、個人情報保護法第42条第2項に基づく命令を行いました。しかしながら、破産者情報通知サービスは、官報に公告された破産および再生の事実を不特定かつ多数の国民に対し、客観的事実を事実として知らせています。他方、個人情報保護法第76条第2項では「「報道」とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること」を、「報道」の定義しています。破産者情報通知サービスは、個人情報保護法第76条第2項の報道に該当し、個人情報保護法第76条第1項の規定により、個人情報保護法第42条第2項が適用されません。

(5)破産者情報通知サービスは、第三者提供制限の範囲外である

仮に、破産者情報通知サービスが、「報道」とは見なされなかったとしても、破産者情報通知サービスは、個人情報保護法第23条1項の例外規定により、本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供することができます。個人情報保護法第23条1項2号では「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難である」場合は、個人データを第三者に提供することができるとしています。破産者情報通知サービスは、取引相手が破産者および再生者であることを知らずに取引を行う可能性を低下させ、国民の財産を保護に必要な情報を提供しているが、破産者および再生者の数は数百万人と多数であり、破産および再生の事実は、破産者や再生者にとり、他者に積極的に知らせたい情報ではないため、本人からの同意を得ることは困難です。破産者情報通知サービスは、個人情報保護法第23条1項2号を満たしており、「あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供すること」ができます。

(6)命令は「検閲」であり、憲法第21条2項に反している

命令は「個人情報保護委員会から(破産者情報通知サービスを通じて個人データを提供するに際して、あらかじめ本人の同意を得ることをその他法第23条に従った措置をとること)の措置を講じたことを確認した旨の通知を受領するまでは、破産者情報通知サービスを通じて個人データを第三者に提供することを再開しないこと」を、政治団体オープンサイエンスに命じています。

 日本国憲法第21条第2項「検閲は、これをしてはならない」とあります。検閲とは「言論や出版などの表現活動に対し、事前に公権力が思想内容を審査し、必要があれば、その内容などについて削除や訂正を求め、発表を禁止すること」です。個人情報保護委員会は、破産者情報通知サービスが現在、第三者提供を行っている個人データだけでなく、今後、提供することが決まっていない個人データについても、政治団体オープンサイエンスに対し、提供や再開を行わないよう命令を行っています。

破産者情報通知サービスの政治活動、言論、表現活動を「事前に」個人情報保護委員会が審査し、その審査を通過し、政治団体オープンサイエンスが個人情報保護委員会からの通知を受領するまで、政治団体オープンサイエンスの政治活動、言論、表現活動を行わないよう命じることは、憲法第21条第2項が禁じている「検閲」にあたります。

(7)命令は、個人情報保護法第43条第1項に反している

個人情報保護法第43条第1項は、「個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者等に対し報告若しくは資料の提出の要求、立入検査、指導、助言、勧告又は命令を行うに当たっては、表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げてはならない」と定めています。しかしながら、個人情報保護委員会は、命令により、政治団体オープンサイエンスの政治活動の自由、表現の自由を妨げています。命令は、個人情報保護法第43条第1項に反し違法だと考えています。

(8)本人の重大な権利利益の侵害は切迫していない

個人情報保護委員会は、本命令文書において「破産者等の個人データが、本人の同意なく、破産者情報通知サービスを通じて不特定多数人に容易に検索できる方法で継続的に提供されており、多数の破産者等が人格的・財産的な差別的取扱いを受けるおそれがあることなどから、本人の重大な権利利益の侵害が切迫している」と主張しています。

破産者等の個人データは、内閣府が発行する「官報」において、国民に広く周知されている事実です。また、独立行政法人国立印刷局が提供している「インターネット官報」および「官報情報検索サービス」において、破産者の情報は、不特定多数人に容易に検索できる方法で継続的に提供されており、多数の破産者等が人格的・財産的な差別的取扱いを受けるおそれはなく、仮に、多数の破産者等が人格的・財産的な差別的取扱いを受けるおそれがあるにしても、それは破産者情報通知サービスに起因するものではありません。

加えて、日本国政府が、官報で公告し、破産者の「個人データ」を国民に周知している以上、本人の重大な権利利益の侵害が切迫しているはずはなく、仮に本人の重大な権利利益の侵害が切迫しているとすれば、それは破産者情報通知サービスに起因するものではありません。

個人情報保護法第42条2項は「勧告を受けた個人情報取扱事業者等が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる」と定めています。 個人情報保護委員会は、個人情報保護法第42条2項が定める本命令を行うにあたり必要な「個人の重大な権利利益の侵害が切迫している」事実について、何ら政治団体オープンサイエンスに示していないし、先に述べたように、個人の重大な権利利益の侵害が切迫しているとする情報は、官報により公告され、国民に周知されている以上、個人の重大な権利利益の侵害が切迫しているはずもなく、仮に生じていたとしても、その原因が破産者情報通知サービスに起因するものではない以上、個人情報保護委員会は政治団体オープンサイエンスに命令を行うことができません。従って、命令は、個人情報保護法第42条第2項に反し違法であると考えています。

「個人情報保護委員会VS政治団体オープンサイエンス」その3 命令に対する見解」への1件のフィードバック

  1. 匿名

    裁判所に自己破産を申し出て、破産した者は、自ら望んだ結果を得て、負債など清算できたのに、後になって、他人に知られたくないなんて自分勝手ではないの?

    官報には掲載されるので、誰しもが得られる情報なのでは無いのだろうか?

    自己破産せず、真っ当に負債を清算すればいいだけではなかろうか?

    返信

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